キューピーの音楽評論(仮)

星野源のファンブログ

星野源の描く、理想の夫婦像

星野源の、通称‘’老人三部作‘’と呼ばれる曲をご存知だろうか?
老人と言うより、‘’老夫婦‘’を描いた曲です。
この3部作から、星野源の描いた理想の夫婦像と価値観がわかります。

星野源1stアルバム『ばかのうた』に収録されています。
ささいな日常を描いた、短編集を読むように楽しめるアルバムです。

老人三部作 その①『グー』

とある老人夫婦の日常を描いています。
“グー”とは、寝ている時の擬音ですね。
日常の生活を、大事に過ごしている1曲です。
お爺さんの視点から描かれる生活の1コマ。
お婆さんの寝起きの顔は“ぶちゃむくれ“ています。
“ぶちゃいく(不細工)“+“むくんでいる“という造語を使っていますが、可愛らしい印象ですね。
お爺さんのお婆さんに対する愛情を感じます。
よそ行きの恰好よりも、日常の素の顔が好きだと思っているお爺さんに癒されます。
しわのある口が開いていても、ヨダレを垂らしていても愛おしいと思ってもらえるなんて
女性からしたら嬉しいことです。

グーグーグー・・・と、リズミカルで気持ちいい語感が印象的な曲です。

しかし、物語の途中でお爺さんは倒れて、入院してしまいます。
その時でも、病院での手厚い看護を受けるより、家の布団でお婆さんの隣で眠りたいと願います。

最期は家に戻り、見慣れた天井や二人の布団が狭いことも嬉しいようです。
お爺さんは、お婆さんの寝起きの顔はもう見れないだろうと悟りながら、お婆さんの懐で眠りにつきます。
とても幸せな最期です。

私はこの曲を聞くと、病気を悪化させても頑なに入院しなかった父を思い出します。
遺される者としては長生きして欲しかった。
けれど、本人はそれで幸せだったのかもしれません。

老人三部作 その②『茶碗』

‘’茶碗‘’で、夫婦の長い年月を歌うこの曲。
柔らかく優しい歌声で歌い、ハンドクラップが心地よい1曲。

生活の基本。“毎日、食べる。“
その日々の積み重ねを、‘’茶碗‘’で表現しているこの曲。
あなたは、その茶碗を何年使い続けていますか?
この曲の名脇役とも言える茶碗は、20年使い続けた為にふちが剥げ、底も少し割れている。
ずっと夫婦の生活を支えてきた茶碗です。
過去から日々を繋いで生きていく様子が、茶碗で現わされています。
年季と味わいのある茶碗が想像できます。

そして面白いのが、茶碗の‘’剥げ‘’が、2番で髪の毛の‘’禿げ‘’に変わります。
茶碗が消耗し剥げていくように、夫婦も禿げて河童のようになっている。
例えが愉快だし、同じように年を重ねて過ごした証の禿げは素敵だなあと感じます。
お爺さんが、お婆さんの長い長い髪を梳いてあげる姿がまたいい。
サザエさんに登場するおフネさんみたいに、髪が長くてダンゴにしている姿をイメージしました。
古風なお婆ちゃん像です。
曲がった櫛も、大事に使い続けているのが素敵。

そういえば……星野源のライブ‘’YELLOW VOYAGE‘’(2016年)のグッズ。
‘’BANANA TOWEL‘’なる黄色いタオルがありました。
「死ぬ間際に、このタオルが側にあったら面白い」
ということを、星野源さんが言っていたのを思い出しました。
ヨボヨボになって瀕死の時に、真っ黄色でもないボロボロのこのタオルを持っている。
滑稽だけど素敵だと思いました。そのイメージと繋がります。

老人三部作 その③『老夫婦』

アコースティックギターの音色で、静かに始まるこの曲。

お婆さんが先に逝きます。
お爺さんは、お婆さんの好きだった場所を歩く、ただ、それだけの曲。
「ららら……ららら……」と歌う中に、全てが集約されます。
他に言葉で表現できないのだと思います。
何も考えてないとも言えるし、考え出すときりがないほどの思いがあるはずです。
長年連れ添った夫婦ですから。

‘’おじいちゃん‘’があだ名だった星野源

経験してきたかのように、老夫婦の歌を歌う星野源。
昔から老成していたのか‘’おじいちゃん‘’というあだ名だったようです。
‘’チューボーですよ‘’(2015.10.24放送)にゲスト出演していた際にも、ネタにしていました。
鬼ごっこしてる時に‘’おじいちゃん‘’の振りで回避する星野源がいました。

そういう私も‘’おばあちゃん‘’というあだ名でした。
同じような人も、この曲に共感できるのではないでしょうか?

‘’老人3部作‘’を通して、日々の生活をありのままに愛している。
ワードセンスでは‘’ぶちゃむくれている‘’の言葉。
‘’禿げ‘’とか、歌詞としては選ばないような言葉も入れるところに‘’日常‘’を歌ってるのだと感じます。

愛を歌う時、神格化したような歌詞だと嘘っぽくなる。
そのキラキラが良いという人もいるだろう。
格好つけてない言葉を使う方がより生々しい。

しかし、それはより高度な理想主義とも言える。
‘’特別な日‘’よりも、‘’日常‘’の方が圧倒的に多い。
その日常の中に愛情を持ち続ける方が、絶対的に難しい。そう、私は思うからです。
‘’こんな夫婦になりたいな‘’と思わせられるのです。

『ばかのうた』は、名曲がたくさんあります。
全曲を通して、演奏も歌声も優しい雰囲気に包まれています。
またご紹介していきますが、是非チェックしてみてください。

星野源『ばかのうた』をつくるpart1/4

星野源『ばかのうた』をつくるpart2/4

星野源『ばかのうた』をつくるpart3/4

星野源『ばかのうた』をつくるpart4/4